新型コロナウィルス感染症拡大防止に配慮した法座開催のガイドライン

※3月25日現在の時点では、まだ、そのような状況になってはいませんが、今後、さらに新型コロナウイルスの感染が広がった場合、政府から新型インフルエンザ特別措置法に基づく緊急事態宣言が出されたり、各自治体から都市封鎖(ロックダウン)などの措置が発表されたりする可能性があります。そのような場合は、このガイドラインよりも、まず、政府や各自治体の指示に従うようにしてください。わたしたちも、COVID-19の一刻も早い収束を待ち望んでいます。

この「浄土真宗の法話案内」をご覧の方はおわかりかと思いますが、感染拡大の始まった3月から各地での法座が軒並み中止になっています。普段法座に参詣する人の年齢層の高さや、隣国韓国での最初の感染拡大が宗教行事によって起きたこと。また、寺の行事から感染者が出た場合のリスクの高さを考えると、現段階ではやむを得ない処置かと思います。

しかし、宗教というのはそもそも、こうした不安が社会を覆っているときほどその存在が問われるものですし、今はやむを得ないとしても、法座は本来は簡単に中止していいことでもないのです。そして「こんな時に法座を開催するなんて、世間からどう見られるか」といった、漠然とした「空気」に抵抗できずに開催を中断する姿も、私自身が幾度も見てきました。

確かにウィルスで私たちは死ぬことがあります。でも、私たちの日常から仏法が失われることで死んでいく何かもあるはずです。こんな時だからこそ仏法を聞きたいし伝えたい、という方もあるでしょう。その中、本当に法座は中止するしか無いのでしょうか。条件によっては、十分に注意をして開催することはできないのでしょうか。

このコンテンツは、現在明らかになっている新型コロナウィルス感染症の最新の知見から、この時期に考えうるリスクを極力減らして、法座を開催するにはどうしたいいのかを考えています。

コロナウイルス感染についての全体的な話

このウイルスが感染した場合、多くの人は、はっきりした自覚症状はありません。感染していることにすら気づかない人が多いのです。症状がある人でも、せきや鼻水など、1週間程度風邪のような症状が続くだけで治ってしまう人が、ほとんどです。その一方で、ごく一部の人は、重症化するおそれがあることがわかっています。

このウイルスの感染は、飛沫感染と接触感染という2種類の方法で感染することがわかっています。

飛沫というのは、感染者がくしゃみや咳をしたときや声を出したときなどに飛ぶ、つばや鼻水のしずくが空気中に飛び散ったもののことです。息を吸い込むときに飛沫を吸い込んでしまって起こる感染を飛沫感染といいます。新型コロナウイルスを含む飛沫は、2m程度までしか飛ばないことがわかっています。これをさけるには、あまり密集して座らないこと。適度に換気をすること。飛沫を飛ばさないためにマスク等をつけることなどが有効であることがわかっています。

接触感染というのは、感染者が手で自分の顔を触ったときに、手にウイルスが含まれた鼻水やつばがついて、さらに、そのウイルスがついた手でなにかを触り、その触られたものに次に触った人の手にウイルスがついて、触ったその手で自分の口や鼻などを触るという一連の行動の結果として起こる感染です。これは、多くの人が触るもの、たとえば、ドアノブや手すり、ビュッフェスタイルのレストランのトングなどで起こると考えられています。これをさけるには、できるだけ、沢山の人がひとつのものにさわることをさけること、また、こまめに手を洗うことが有効であることがわかっています。

法座に参詣する側が注意すること

1.体調や年齢、基礎疾患について
自宅を出る前に、自分の健康状態を確認してください。風邪のような症状のある人、熱のある人や咳が出ている人は、参加は遠慮してください。新型コロナウイルス感染は、普通の風邪と区別が付きませんし、万一、新型コロナウイルス感染であった場合、それを人に感染させる可能性があるためです。
このウイルスの感染では、高齢の人、基礎疾患のある人、高血圧や糖尿病の人、喫煙習慣のある人などが、重症化しやすいことがわかっています。心配な方は、しばらくの間、法座への参加を見合わせたほうが良いと思います。また、この機会に、喫煙をおやめになるのも良いと思います。

2.会所への移動手段について
公共交通機関を怖がる必要はありません。ただ、可能であれば、できるだけ、ラッシュ時はさけたほうがよいでしょう。

3.マスクは有効か
マスクについては、感染している人がマスクをつけることで飛沫を飛ばしにくくなるため、人に感染させにくくなるとわかっています。その一方で、非感染者がマスクを付けても、自分が感染することを防ぐことができるかは、はっきりとはわかっていません。だれもが、自分自身が感染者である可能性がありますから、もし、マスクが用意できるならば、他の人に感染を広げないためにマスクをつけてきていだだくほうが良いと思います。使い捨ての市販のマスクがないならば、布で作った手作りのマスクでもよいでしょう。マスクが用意できない人は、ハンカチやタオルなどを持ってきて、くしゃみや咳などがでたときに口元を覆ってもらうというのでも良いと思います。

4.トイレや洗面台の利用、手洗い
トイレの便座やドアノブなどを介して接触感染が起こる可能性があります。トイレの利用前と利用後の2回、手を洗ってもらうことが対策として有効だと考えられています。また、手洗い後に自分の手を拭くために、できるだけ、自分用のハンカチやタオルなどを持ってきてください。他の人が手を拭いた共用のタオル等で手を拭くことで接触感染を起こす恐れがあるためです。

5.服装
会場では、換気を良くする必要があるため、どうしても、気温が下がる可能性があります。まだ寒い季節ですから、念のため、防寒の用意をしたほうがよいでしょう。必要な人は、ひざ掛けなども持ってきてください。

法座を開催する側が注意すること

1.法座の案内をする際の注意点
こうした世情ですから、法話を開催することで周囲に不安を与えたり、反対を受けることもあるでしょう。実際に厳しい批判を受けたケースも聞いています。
そのため、事前に案内を送ることができるのなら、本堂に消毒用のアルコールを用意し、椅子の間隔を開けるなどの対策をとっていること。高齢の方や基礎疾患のある人は参加を推奨しないなど、十分な感染対策の上で法座を勤めることを明確にし、それを案内に記載するのがよいでしょう。

2.講師と参詣者の距離をとり、椅子は極力間隔を明ける
飛沫感染は、お互いの距離をとることで防ぐことができます。特に、声を出して話をする必要がある講師は、参詣者から距離を取ることが望ましいです。様々なガイドラインで、お互いの距離を2メートル以上取ることが望ましいとされていますが、会場の都合で、それだけの距離を取りにくいこともあるでしょう。その場合は、まず、講師と参詣者の距離を取ることを優先して、その上で、参詣者どうしの距離も、可能な範囲で取るようにしてください。

3.マスク着用を推奨すべきか
できるだけ、マスク着用をすすめたほうが良いと考えます。飛沫を飛ばさないようにする目的であれば、市販のマスクでなくとも、手作りの布製のマスクでも構いませんから、楽しいマスクを作ったり、配布したりする企画などをなさっても良いかと思います。

4.手指の除菌について
接触感染を防ぐためには、手指の消毒が大切です。もし、用意できるならば、会場の入口に、消毒用のアルコールを用意してください。

5.座談会はすべきか
座談会を行うには、どうしても、お互いが近づいて、声を出して話し合う必要があります。しばらくは、座談会は延期されたほうが良いと考えます。

6.お斎(食事会や茶話会)はすべきか
お斎を楽しみにしていらっしゃる方も多いでしょうが、しばらくは、延期されたほうが良いと思います。

7.換気
できるだけ、換気を良くするようにしてください。特に、休憩時間には空気の入れ替えをすることが望ましいです。寒さをうったえる人が出てくる可能性もありますから、ひざ掛けの準備があれば事前に案内してください。ひざ掛けを用意する場合は、多めに用意して、参加者間でひざ掛けを受け渡しすることがないように注意してください。

8.トイレについて
トイレの洗面台には、可能であれば、共用の布製の手拭きタオルを撤去して、かわりに、使い捨てのペーパータオルを用意することを検討してください。また、洗面台には、石鹸を用意してください。

9.その他
できるだけ、多くの人がさわるものをへらすことが重要です。たとえば、可能であれば、人の出入りの多い時間帯には、入り口のところにドアマンを用意することなども良いと思います。

これらの対策は、法座の開始時や休憩時間に、住職や門徒総代といったお寺を代表する立場の人が、繰り返し参詣者に案内することが大事です。特に高齢の方へは、若い人がドアを開けたり手指の消毒をサポートしてあげてください。

ここまでしてする必要があるのか、と思われる方もあるかもしれませんが、十分な対策をすれば感染を防ぐことは可能ですし、こんなときだからこそ、法座は簡単には中止にしてはならない大切なことなのだと、伝わる機縁と言えるかもしれません。

この新型コロナウィルスとの戦いは長期戦になると言われています。無理をして開催することはないでしょうが、だからといってずっと中止や延期にし続けることもできません。このガイドラインは今後も新しい知見が入り次第アップデートする予定ですので、役立てていただければと思います。

2020-03-22 第一版 公開
2020-03-25 修正

文責

高田英明(医師・やさしさと医療のソフトウェアの研究室 代表)
瓜生崇(真宗大谷派玄照寺住職)

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